空の時 1


 俺は、野球部で遅くなった。

きつい練習。上下関係の厳しさから、自殺しようとしていた。

校舎の誰も通らないような所を探していた。

そこに、彼女がいた。


 彼女は、しゃがんでいた。

タバコを吸っていたのだ。

俺は、じっと彼女を見た。

彼女は、「何見てんだよ? あっちいけよ!」と、怒鳴った。

「え、いや、ごめん」思わず、謝った。

「なんだよ。珍しくないだろ?」

「いや、ちょっと、用事で探し物してて」

 彼女は立ち上がった。

その口調とは違い、彼女の身長は小さかった。まるで、小学生くらいの身長だ。

「しょうがねぇなぁ。一緒に探してやるよ」

「え〜! それは、ちょっと、困るんだ」

「だよ〜。人が親切にしてやれば、ジュースおごれよな?」

「それは、たぶん、できない」

「はぁ、たぶんってなんだよ?」

「それは・・・、」

「ったく、さっさと探せよ」

「うん、」

 俺は立ち去った。


 校舎の4階。

俺は、窓を開け、足をかけた。

緊張する。怖い。

ドクドクと脈が速まる。

俺は、これから死ぬんだ。そう、覚悟を決めた。

「やめとけよ」と、突然、声がした。

俺の集中は切れ、声のした方向に顔を向けた。


「自殺なんて、やめとけよ」

「見てたのか?」

「行動がおかしかったからな」

「・・・!」

「いじめられたか? そいつの名前、教えろよ」

「そんなんじゃないよ」

「じゃあ、なんだ?」

「部活がきつくて、上下関係が厳しくて・・、」

「そんなことで、死ぬつもりだったのかぁ?」

「そんなことって・・・、」

「その先輩より、うまくなりゃあいいんじゃん?」

「そしたら、よけいいじめられるよ」

「ば〜か、監督はそういうとこ見てんだよ」

「そ、そうか?」

「お前、なんていうの?」

「え?」

「名前だよ」

「俺は、武藤っていうんだ」

「ば〜か、こういうのは、下の名前だよ」

「雅人だけど」

「ふ〜ん、単純な名前だな。俺は、美咲、よろしくな」

 美咲は、手を差し出した。

一瞬迷ったが、握り返した。


「明日、部活終わったら、ここにこい」

「え? 遅くなるよ。女の子がそんなに遅くいたら・・、」

「ばーか、雅人に送ってもらう。ついでに、晩飯おごれよ」

そう言って、美咲は立ち去った。


 翌日の部活は、疲れたけど、楽しくやれた。

同じ2年のタツに「お前、なんか機嫌よくない?」と言われた。

俺は、「そうかな?」と答えた。

「絶対、機嫌いいよ。練習にも集中してるみたいだし」

「あ、ちょっと、本気モードかもなぁ」

「じゃあ、俺もやるかぁ。コンビだしな?」

「お、そうか? ありがたい」


 

 俺はセカンド希望。

タツはショート。

セカン・ショートのコンビだ。

タツにそう言ってもらえて、嬉しかった。


 

 松島先輩が号令をかけた。「じゃあ、グランド整備〜」

石川先輩が「1年、トンボかけろよな?」


 

 全員で、トンボをかけるが、1年には、大きいトンボがあって、グランド1週する。それがきつい。

キャプテンの松島先輩はそんなこと言わないけど、石川先輩は、偉そうで態度だけでかい。

1年のみんなは密かに『3L』と呼んでいる。態度もでかいってわけだ。



 

 監督の無意味に長いミーティングのあと、さっさと着替えて、4階に行った。

そこには、だるそうに、タバコを吸っている。美咲がいた。

「ごめん、かなり待ったよね?」

「当たり前だろ?」

「ごめん。監督の話が長くて」

「そんな言い訳、聞ききにきたんじゃねぇよ」

「ご、ごめん」

「じゃ、飯食いにいこーぜぇ?」

美咲が手を引いた。

俺は、担いでるバットでけつまずいた。


 

「いてぇ・・・、」

「まったく、何しにそんな邪魔なもん、持ってんだよ〜。部室においとけよ」

「いや、帰って素振りするんだよぉ〜」

「・・・・、行くぞ」

「ごめん、」


 

 そして、美咲に連れられたところは、ファミリーレストランだった。