空の時 13


 

 「もしもし」

「あ、雅人か。俺、美咲だよ」

「美咲。悪いけど、今、取り込んでるんだ。また、後で、」

「あのさ、今、いつもの場所にいるんだ。着てくれ」

「ちょっと、ま、・・・」

 電話は、突然切れた。

あの頃の感情が蘇ろうとしていた。千春がいるのに。


「千春ちゃん。ごめん、急用ができた。また、今度にしよう」

「先輩。美咲って誰ですか?」

「ちょっとね」

「ちょっとって、なんですか?」

 美咲は、その微妙な空気に感ずいたようだった。


「転校していった、友達なんだよ」

「私をこのまま置いていくんですか?」

「ごめん、遠くから、近くに来たって言うから、」

 千春の目は俺を責めていた。

自分を放っておいて、別の女のところに行こうとする俺を。

「千春ちゃん。一緒に行こう。美咲も喜んでくれるはずだよ」

「結構です」


 千春は、走り去った。


 千春が駆け出した後もしばらく、千春を探してみたが姿はなかった。

しかたがないので、美咲の待つ学校へと向かった。


誰もいない。

千春を探している間に、島根に帰ってしまったんだろうか?

辺りを見回した。

誰もいない空間が広がっていた。


 俺は、あのまま帰してしまった千春のことが気にかかった。

千春に謝りのメールを打ち込んでいると、頬に熱いものを感じた。

美咲も忘れられず、千春を愛せない自分を悔いた。


 「帰ったと思った?」

「え?」

 振り返ると、美咲がいた。