「もしもし」
「あ、雅人か。俺、美咲だよ」
「美咲。悪いけど、今、取り込んでるんだ。また、後で、」
「あのさ、今、いつもの場所にいるんだ。着てくれ」
「ちょっと、ま、・・・」
電話は、突然切れた。
あの頃の感情が蘇ろうとしていた。千春がいるのに。
「千春ちゃん。ごめん、急用ができた。また、今度にしよう」
「先輩。美咲って誰ですか?」
「ちょっとね」
「ちょっとって、なんですか?」
美咲は、その微妙な空気に感ずいたようだった。
「転校していった、友達なんだよ」
「私をこのまま置いていくんですか?」
「ごめん、遠くから、近くに来たって言うから、」
千春の目は俺を責めていた。
自分を放っておいて、別の女のところに行こうとする俺を。
「千春ちゃん。一緒に行こう。美咲も喜んでくれるはずだよ」
「結構です」
千春は、走り去った。
千春が駆け出した後もしばらく、千春を探してみたが姿はなかった。
しかたがないので、美咲の待つ学校へと向かった。
誰もいない。
千春を探している間に、島根に帰ってしまったんだろうか?
辺りを見回した。
誰もいない空間が広がっていた。
俺は、あのまま帰してしまった千春のことが気にかかった。
千春に謝りのメールを打ち込んでいると、頬に熱いものを感じた。
美咲も忘れられず、千春を愛せない自分を悔いた。
「帰ったと思った?」
「え?」
振り返ると、美咲がいた。