空の時17
雅人は、公園のベンチに座るのも飽きて、ブランコにのりながら、ぼんやりと、目の前の親子のやり取りを眺めていた。
すると、尾崎豊の“I LOVE
YOU”の音楽が流れる。この曲の発信者は千春だ。
雅人の心は、ケーキのスポンジを食べるような気持ちになって、携帯電話を手にした。
─── もしもし、千春ちゃん?
─── うん。三咲さんから、説得されて、3人で話すことになりました。駅前のモスバーガーに来てください。───
───うん、分かった。───
雅人は、ブランコから飛び降り、軽快に駅前に向けて走り出す。
* *
「三咲さん、先輩きてくれるって。三咲さんも来て下さい。なんか、拗ねて、家に閉じこもってたから、恥ずかしくて・・・」千春の声は弾んでいた。
「でも、二人の方がいいんじゃない? 私は、邪魔だから」三咲は一瞬、顔を曇らせたが、すぐににこやかにこう言った。
「そんなことないですよ。ねぇ、きて。先輩に会うの久しぶりなんでしょ? ハンバーガーでも食べながら、話しましょうよ」
「千春さんが、そう言うなら、ついていくわ」
* **
先に店についたのは、雅人だった。店内は、学校帰りの生徒達で一杯で、中には、タバコを吸う学生もいたが、雅人はさほど、気にも止めず、三咲と千春の目に付くように窓のそばの机を探していた。
そこへ、二人が入ってきた。
最初に雅人を見つけたのは、三咲だった。「雅人、早かったね?」
「あ、三咲。今、席を探してるとこなんだ。俺はチーズバーガーとコーヒーお願い」雅人は、ウインクして言った。
「お金払わないつもり」と、三咲は意地悪な微笑みを浮かべた。
「そんなんじゃないよぉ〜だ」
千春は、一呼吸置いて言った。「・・・もう、二人とも、仲がいいのは、分かってますよ〜。先輩、なるべく人が少ない所にして下さいね?」
「うん、分かった」
ハンバーガーが届いてからは、千春が取り仕切って、ペラペラと話し出した。「先輩、先輩と三咲さんって、どういう関係なんですか?」
雅人と三咲は、お互いに視線を感じた。(俺は、三咲のことが好きなんだ。)と雅人が言おうとしていると、三崎が「別に、ただの友達よ」
「ホントに?」
「いや、千春ちゃん・・・、」
「千春さん、あなた、私と雅人は、転校する前に屋上でお気に入りの場所を話しただけよ」
「へえ、先輩、なんて、言ってたんですか?」
「なんだっけなぁ? そうそう、屋上は、空に一番近い場所だよ。次のチャイムが鳴るまで空の時にひたれる場所なんだぁ。とかってかっこつけてね」
「先輩、キザだよ」千春は、笑いをこらえながら言った。
「い、いいだろ、別に・・・!」雅人はムキになって答えた。
その時、三咲は、あの屋上の空の時を大事にしているんだと。思い直した。でなければ、言葉遣いまで直さないのに、と思った。
「先輩、でも、惚れ直しました。これからも、一緒にいてね?」
「う、うん」雅人は、思った。どうやら、三咲は、本当に友達だと思っているみたいだ。だから、好きだという気持ちは、抑えようと。
「そうだな、千春ちゃん」
そして、3人は、出会いの話をし、三咲の今の学校の話をした。
「じゃあ、そろそろ、時間だから、早く行かないと、島根行きのバスが出ちゃうから」
「あ、待ってよ。三咲、送っていくよ」
その言葉に弾かれたように、千春は、雅人をちらりと見た。
「千春ちゃん。明日学校の屋上で待ってるよ。三咲送ってからだから、遅くなっちゃうけど、いい?」
「もちろんですよ。三咲さん、また、3人で会おうね」千春は笑顔で言った。
「そうね。来年。空の時を満喫しようか?」三咲は、微笑んで返した。
「いいなぁ、それ、じゃ、そろそろ」
そして、雅人は二人を送り、1年が過ぎた。