空の時 19

 

 

 雅人は、夜行バスに乗り込み、眠りについた。

午前6:03 雅人は、出雲市駅に降り立ち、キョロキョロと辺りを見回した。美咲が大きな灰皿がある場所でタバコを吸っていた。

雅人は駆け出した。「美咲!」

しかし、雅人が美咲の目の前に近づくやいなや。美咲の平手が飛んだ。

「・・・美咲!」 雅人は左ほほを押さえ雅人は驚いた。

「千春ちゃんの気持ち、考えたことある?」と、美咲のいきなりの質問。

「何言ってんだよ? 美咲」雅人は答える。

「私が聞いてるの。千春ちゃんの気持ち、考えたことある?」

雅人は、千春といた日々を思い返した。「・・・ない」

「やっぱりね」

「でも、別れるって言ったの千春ちゃんで・・・、」

「あんたバカぁ? 雅人がフラフラしてるからに決まってるでしょ?」

「でも、俺は、美咲のことが」

「千春ちゃんがどんな気持ちで、別れるって言ったか考えてみなさい!」

「だめだよ。俺は、美咲の方が好きだから」

「考えなさい!」

「待って、せめて、美咲の答えを」

「雅人が好きだよ」美咲は、驚くほど、まっすぐに答えた。

「じゃあ?」

「でも、付き合えない。遠距離だよ? いい年齢になるまで、何年も待たなきゃいけないんだよ? あんた、待っててって言える? 浮気しないって、100%言える? 相手を縛り付けられる?」

「・・・、」雅人は絶句した。

「私も雅人が好きだけど、相手を縛り付けるような真似はできないって思ってる」

「・・・美咲、」

「だから、せめて、可能性のある千春ちゃんにかけてる」

「千春ちゃんに?」

「じゃあ、とっとと、東京に帰りなさい」

「美咲・・・」

「もう、来るんじゃねーぞ?」

「俺は・・・、」

「さ、チケット買ってこい」

 雅人は、美咲に促されるまま。チケットを購入した。

後ろを振り返ると、もう、美咲はいなかった。

その風景の隅に美咲はいた。

美咲が何かを呟いたが誰も確認できなかった。

 

 終わり。